とうこう2

 とうとうしまいに、みんなは、台所で働いている、貧しい小娘こむすめに出会いました。ところが、娘はこう言いました。
「ああ、ナイチンゲールのことでございますか。それなら、あたし、よく知っておりますわ。はい、ほんとに、じょうずにうたいます。
 毎晩、あたしはおゆるしをいただきまして、かわいそうな、病気の母のところへ、お食事ののこりものを、すこしばかり持ってまいりますの。母は、浜べに住んでいるのでございます。あたしが、御殿へもどってまいりますとき、つかれて、森の中で休んでおりますと、ナイチンゲールの歌声が、聞えてくるのでございます。それを聞いておりますと、思わず、なみだうかんでまいります。まるで、母が、あたしにキスをしてくれるような気持がいたしますの」
「これ、これ、娘」と、侍従が言いました。「わしたちを、そのナイチンゲールのところへ、連れていってくれ。そのかわり、わしは、おまえを、お台所の役人にしてやろう。そのうえ、皇帝さまが、お食事をめしあがるところも、見られるようにしてやろう。というのは、皇帝さまが、今夜ナイチンゲールを連れてくるようにと、おっしゃっておいでなのでな」
 それから、みんなで、ナイチンゲールがいつも歌をうたっているという、森へでかけました。宮中のお役人も、半分ほどの人たちが、ぞろぞろとついていきました。こうして、みんなが、いさんで歩いて行くと、一ぴきのウシが鳴きはじめました。
「ああ、あれだ!」と、小姓こしょうたちが言いました。「やっと、見つかったぞ。だが、あんなちっぽけな動物なのに、ずいぶん力強い声を出すんだなあ。だけど、あれなら、前にも、たしかに聞いたことがあるぞ」
「いいえ、あの声は、めウシでございます」と、お台所の小娘が言いました。「その場所までは、まだまだ、かなりございます」
 今度は、ぬまの中でカエルが鳴きました。
「なるほど、すばらしい! おお、聞える、聞える。まるで、お寺の小さなかねが、鳴っているようだの」と、宮中づきの中国人のぼうさんが言いました。
「いいえ、いいえ、あれは、カエルでございます」と、お台所の小娘は言いました。「ですが、もうじき、聞えると思います」
 やがて、ナイチンゲールが鳴きはじめました。
「あれでございます」と、小娘が言いました。「お聞きください! お聞きください! そら、そら、あそこにおりますわ」
 こう言いながら、娘は、上のほうの枝にとまっている、小さな灰色の鳥を指さしました。
「これは、おどろいたな」と、侍従が言いました。「あんなものとは、思いもよらなかった。ふつうのつまらん鳥と、すこしもかわらんではないか。さては、こんなに大ぜい、えらい人たちがきたものだから、鳥のやつ、色をうしなってしまったんだな」
「かわいいナイチンゲールさん!」と、お台所の小娘は、大きな声で呼びかけました。「あたしたちの、おめぐみぶかい皇帝さまが、あなたに歌をうたってもらいたい、とおっしゃってるのよ」
「このうえもない、しあわせでございます」
 ナイチンゲールは、こう言って、なんともいえない、きれいな声でうたいました。
「まるで、ガラスの鈴が鳴るようではないか!」と、侍従が言いました。「あの小さなのどを見なさい。なんとまあ、よく動くではないか。わしたちが、今まで、これを聞いたことがないというのは、まったくふしぎなくらいだ。しかし、これなら、宮中でも、きっとうまくやるだろう」
「もう一度、皇帝さまに、うたってさしあげましょうか?」
 ナイチンゲールは、皇帝もそこにいるものと思ってこう言いました。
「これは、これは、すばらしいナイチンゲールどの!」と、侍従は言いました。「今夜、あなたを、宮中の宴会えんかいにおまねきするのは、わしにとって大きなよろこびです。宮中へまいりましたら、あなたの美しい声で、どうか、皇帝陛下の心を、おなぐさめ申しあげてください」
「わたくしの歌は、このみどりの森の中で聞いていただくのが、いちばんよいのでございます」と、ナイチンゲールは言いました。けれども、皇帝がお望みになっていると聞いたので、よろこんで、いっしょについていきました。

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